
日本のサッカーファンにとって、スウェーデンといえば長く「ズラタン・イブラヒモビッチの国」というイメージが定着してきたが、2026年ワールドカップで日本代表と対戦するチームの中に、もはやその面影を探すのは難しい。絶対的な象徴であったイブラヒモビッチの引退後、スウェーデンは劇的な世代交代と戦術的アイデンティティの変遷を経験している過渡期のチームである。
彼らは決して、かつてのような規律と組織的守備を重んじる堅守のチームではない。現代のスウェーデン代表の実像は、いびつなスカッド構造を抱えながら極端な実利主義に振り切った、極めてアンバランスで危険な集団である。
イブラヒモビッチの時代の終わりと世代交代、そして迷走
かつてのスウェーデンは、強固な守備ブロックと規律をベースとした伝統的な堅守速攻を代名詞としていた。しかし、カタール・ワールドカップおよびEURO 2024の出場権を逃したことで、スウェーデンサッカー連盟は初の外国人監督であるヨン・ダール・トマソンを招聘し、ボールを保持してゲームを支配する攻撃的な戦術への転換を図った。
だが、この野心的な実験は凄惨な結果を招く。現在のスウェーデンは、優秀なディフェンダーの育成に失敗しており、かつてのような屈強な守備陣が枯渇している。その一方で、前線には世界トップクラスのタレントが過剰にひしめき合っているという構造的な歪みを抱えていた。結果としてトランジション時に致命的な脆弱性を露呈し、トマソン体制はわずか20ヶ月で崩壊したのである。
ポッター体制の極端なプラグマティズムとセットプレーへの依存
崩壊の危機に瀕したチームを救うべく2025年10月に就任したのが、イングランド人指揮官のグレアム・ポッターである。彼はクラブレベルで見せていた緻密なポゼッション戦術を代表では一時的に完全に封印し、選手たちの質を最大限に生かすという極端なプラグマティズム(実利主義)へのシフトを宣言した。
現在のスウェーデンの戦術は極めて直線的だ。中盤での複雑なビルドアップによるリスクを避け、ボールを奪取した瞬間に前線のタレントが走るスペースへと素早くロングパスを供給する。自らゲームをコントロールするのではなく、攻守の切り替えが連続するオープンな展開を作り出し、アタッカーの圧倒的な個の能力を最大限に活かす戦術へと回帰したのである。また、両サイドバックが攻撃に参加した背後のスペースを埋めるメカニズムが欠如しており、守備組織は容易に分断されるという明確な弱点も残している。
そして最大の武器となっているのが、セットプレーのスペシャリストであるアンドレアス・ジョルグソン・コーチがデザインする戦略的なセットプレーである。190cm前後の長身選手を複数揃える物理的優位性を活かし、ファーサイドを狙う緻密なルーティンなど、事前のスカウティングに基づく局所的なデザインプレーが得点源として猛威を振るっている。
スウェーデンの命運を握る2人のアタッカー
現在のスウェーデンにおける絶対的なストロングポイントは、いかなる強固な守備組織も単独で粉砕し得るストライカー陣である。
ヴィクトル・ギョケレス(アーセナル)
現在の絶対的なエースとして君臨するストライカー。圧倒的なフィジカルコンタクトの強さと推進力、そしてペナルティエリア内での理不尽なまでの決定力を併せ持つ。ポッター監督の直線的な攻撃戦術における最大のターゲットであり、チームの得点の大部分を彼個人の突出した能力に依存している。
アレクサンデル・イサク(リヴァプール)
ギョケレスと双璧をなすもう一人のワールドクラス。度重なる負傷に苦しんではいるものの、長身でありながら極めて流麗なボールコントロールとシュート技術を備えている。彼がトップフォームでピッチに立てば、オープンな展開の中で対戦国にとって計り知れない脅威となる。
日本代表が攻略するための鍵
2026年ワールドカップのグループF第3戦で激突する日本代表が、この極端なチームを打ち破るための戦術的アプローチは明確に存在している。
攻略の第一歩は、スウェーデンの好む無秩序なカオスに付き合わないことだ。佐野海舟、田中碧、鎌田大地らの中盤を中心にポジショナルプレーを徹底し、高いボール保持率で試合のテンポを完全に掌握する。ボールを保持して相手に攻撃の機会を与えない能動的な守備を実行することで、ジョルグソンが仕掛けてくる危険なセットプレーの機会そのものを物理的に削減することが不可欠となる。
守備面では、ギョケレスやイサクの理不尽な突進に対し、センターバックの1対1だけで対応するのは極めてリスクが高い。アンカーポジションの選手が防波堤となり、前線へパスが入る瞬間に前後から挟み込むダブルチームによる強固な迎撃システムの構築が求められる。
そして攻撃面における最大の突破口は、スウェーデンが抱えるディフェンスラインの連携不足と、両サイドバック背後の広大なスペースである。緻密なビルドアップで相手のプレスを誘引し、素早くサイドへ展開して中村敬斗や堂安律を1対1の状況に持ち込む戦略が有効だ。相手の脆い側面守備を、日本が誇る強力なウイング陣の機能美で冷静かつ冷酷に解体していくことが、勝利への最適解となる。